Anchorsong Interview | クラブミュージック情報サイト HigherFrequency
世界を舞台に活躍する日本人 DJ は数いれど、海外を拠点にトラック・メーカー / ライヴ・パフォーマーとして着実なキャリアを重ねている日本人アーティストは決して多くは無い。だが、ロンドン在住の Anchorsong こと吉田雅昭は、その数少ない成功例の一人だ。2007年に渡英し、ほとんどツテもない状態からイギリスでの活動を始めた彼だが、サンプラーの MPC2500 とキーボードを駆使してリアルタイムで楽曲を組み立てていくパフォーマンスが話題を呼び、Bonobo や Daedelus などといったビッグ・ネームともライヴで共演。そして、それがきっかけとなって、イギリスの名門 Tru Thoughts とアルバム契約を結ぶにまで至ったのである。
そんな彼の音楽性の基本となっているのは、初期 DJ Shadow の影響がどこか遠くに感じられる、ミニマルでストイックなブレイクビーツ。そして、そこにドラマティックで情緒的なストリングスなどを絡ませることで、独自の世界観を創出している。このたび完成したファースト・アルバム "Chapters" も、その基本的な路線を踏襲したものだと言っていいだろう。だが、各曲の粒の揃い具合と音楽的な幅広さ、そしてそれらを一枚の作品としてまとめ上げる手腕の鮮やかさという点では、これまでに送り出してきた3枚の EP のクオリティを遥かに凌いだものであることは間違いない。まさにこの "Chapters" は、今後の Anchorsong の名刺代わりとなるような一枚だ。
それでは、今年9月に代官山 UNIT で凱旋帰国ライヴを行った吉田氏の話に、じっくりと耳を傾けてみよう。
interview : Yoshiharu Kobayashi
――元々はどういった音楽を聴いていたんですか?
Anchorsong : 洋楽にのめり込み始めたのは中学3年くらいなんですけど、一番最初はオルタナ系のロックが好きだったんです。The Smashing Pumpkins とか Nirvana とか、アメリカのものがすごく好きで。もちろん、今でも決してああいう音楽は嫌いではないんですけどね。今でもそういうのがルーツにあるのは自覚してますし。
――それからクラブ・ミュージックに惹かれ始めたきっかけというと?
Anchorsong : ずっと洋楽を追いかけてると、必然的にエレクトロニック・ミュージックから影響を受けたロック・バンドに行き当たって。まあ、Radiohead なんですけど(笑)。Radiohead が「Aphex Twin がヤバい」って話しているのを読んで、Aphex Twin を聴いて、Warp のことを知って、Boards of Canada を知って、Autechre を聴いて……っていう感じで裾野が広がっていったんですよね。DJ Shadow を知ったのも結局そういう流れだったと思います。U.N.K.L.E. を知って、DJ Shadow を知ってっていう。一番大きな出会いはDJ Shadow でしたね。
――DJ Shadow で一番好きな作品は?
Anchorsong : "Endtroducing" ……じゃないや(笑)、一番最初は "Private Press" が好きだったんですよ。サンプリングという手法を使って、テクニック的に作り込んでいるという点では、"Private Press" の方が上なので。でも今は、"Endtroducing" の方が好きなんですよね。っていうのは、あっちのほうがシンプルで、飽きのこない作品だと思うんです。何年経っても輝きを失わないアルバムっていうか。"Private Press" に欠けているものがあるとすれば、それかなって思うんですよ。サンプリングにこだわり過ぎて、楽曲としての色褪せない感じが、"Endtroducing" には及ばないかなと。
――では、MPC などを駆使した現在の Anchorsong のユニークなスタイルに行き着いた経緯を教えてもらえますか?
映画、発熱、レビュー
Anchorsong : 元々ロックが好きでライヴにもたくさん行っていたので、エレクトロニック・ミュージックのライヴにあんまりエキサイト出来なかったんですよね。「音源はすごい好きなのに、ライヴはこんなものなんだな」っていうのがストレスでもあったんですよ。だから、その欲求不満を自分自身で解消したいと思ったんです。僕と同じように感じているリスナーは少なくないと思ったんで、そこの架け橋になりたいという思いがありまして。
――現在のスタイルを築き上げる上で、具体的なヒントとなったものはあったんですか?
Anchorsong : Tortoise のドラマーの John Herndon がやっていた A Grape Dope っていうプロジェクトですかね。マニアックですけど(笑)。僕は一時ニューヨークに留学してたんですけど、そのときに観に行った Prefuse 73 の前座が A Grape Dope で。John Herndon は Prefuse 73 のドラマーもやっていましたからね。で、そこで彼は、エレクトロニック・ドラムと生ドラムを使って一人で演奏してたんです。自分がエレクトロニック・ドラムで叩いた音をループさせて、そこに生ドラムの音を被せていくっていうスタイルでした。二つのビートを合体させて一つの曲にするのを見て、「面白い!」って思ったんですよね。ただ、最初の5分くらいは凄く面白かったんですけど、その後は飽きちゃったんです。ずっと同じことをやってるなって。アイデアだけ面白いけど、曲にバリエーションもないし、楽曲そのものがあまりないなと思ってしまって。だから、アイデアの面白さプラス、ちゃんと楽曲として成立していないといけないと思ったんですよね。そのことをすごく覚えてるんです。ある意味、反面教師的だった� �けに。
――なるほど。では、ファースト EP を出した後にロンドンに移住していますが、その理由は?
Anchorsong : ずっと前から UK っていう国に憧れがあったんですよね。The Beatles とか Radiohead とか自分の好きなミュージシャンをたくさん輩出している国なので、いつか行ってみたいと思っていて。後はやっぱり、僕がやっているような音楽でより大きな成功を目指すなら……っていうのもありました。具体的なきっかけを言うと、ちょうどファースト EP を出した後に、ギリシャのアテネからライヴのオファーが来たんです。で、ちょうどその時期に、東京の家から引っ越すことになってて。アテネから帰ってきて東京で新しい家を探して生活を始めるのか、それとも全く違うことを始めるのか――どちらかを問われる感じになったんですよね。それだったら、東京に戻ってくるよりもロンドンに行く方がアテネから近いなと思って(笑)。だから半分思いつきですね。ちょうどタイミングがよかったっていうのもあるし。
――実際、ロンドンに移住してみて、現地での経験が自分の音楽にフィードバックされている部分はあると思いますか?
解体、様々なアーティストがlyrivを行うために聞いて
Anchorsong : 向こうでアンダーグラウンドなシーンが盛り上がっているのは知っていたので、それを肌で感じ、作品に投影したいという思いが最初はあったんですよ。でも行ってみて思ったのは……僕は最初からアウトサイダーだったんです。日本人だからというわけじゃなくて、自分のやっている音楽が向こうの流行とはあんまり接点がない感じで。それでも運よくライヴはコンスタントにやってこれて。それは現場での反応がいつもよかったからなんですよね。全然毛色の違うアーティストと一緒に出ても、オーディエンスは僕のライヴをいつもポジティヴに受け止めてくれる――そんな風に、いつもライヴでの手応えは感じていたので、レコード契約とかを意識してイギリスの流行に傾倒するよりも、自分にしか出来ないことを突き詰めていこう� ��思ったんです。それはイギリスに渡って初めて決心がついたんですよね。ライヴでずっと自信があったとは言え、日本にいる頃は音楽性というところでは、まだ定まっていなかったと思うんです。それを見つけたくてイギリスに行ったんですけど、結局自分でも予想していなかった形で、自分の音楽性が定まったっていう。
後もう一つあったのは、向こうのシーンを見ていると、すごく歴史のある国だから生まれるシーンだと思ったんですよ。海外から来た人間がそのシーンの音楽性を取り入れて、その中で真っ当に勝負できる気があんまりしなかったんですよね。土壌が深いというか。今だと James Blake とか盛り上がってますけど、みんなすごい若いんですよ。あんな若くてあんな感性を持っているっていうのは、やっぱり驚きなんですよね。それはやっぱりあの国で育って、ほぼ無意識のうちに感性を養った結果ですから。違う国で違うバックグラウンドで育った人間が、同じフィールドで勝負しようとしても勝ち目がないと思ったんですよ。それだったら、全然違う角度から自分に出来ることをやろう、と思ったのも理由の一つですね。
――そういった信念を持ちながらイギリスで活動を続けた結果、Tru Thoughts からアルバムをリリースすることが決まりました。
Anchorsong : ライヴで Bonobo のサポートを務めたことがあるんですけど、彼は Tru Thoughts と縁があるので、そこでレーベルが僕を知ってくれたみたいで。彼らが興味を示してくれたから、今回のアルバムに入っている曲を幾つか渡したところ、「もっと聴いてみたい」って言ってくれたんです。実は Tru Thoughts と契約する前から、このアルバムは9割方出来ていたんですよ。なので、次はアルバムをほぼ丸々、向こうに渡したんです。そしたら、「内容を全然変えずに、このまま出そう」って言ってくれて。僕がやっていることを理解してくれて、それをサポートしてくれるレーベルを探していたので、まさに彼らはぴったりだと感じたんですよね。嬉しかったです。レーベルのカラーとしても、流行を追うというよりも、地に足の着いた運営をしているレーベルだと思いますし。
――確かにそうですね。契約前から Tru Thoughts に対しては、何か思い入れはあったりしたんですか?
Anchorsong : そうですね。なにしろ、日本にいた頃にデモを送ったことがありますから(笑)。それで返事が来たんですけど、「聴かせてもらいましたが、今うちが探しているカラーではないので」という丁重な断りのメールで。実は、Tru Thoughts と Fatcat からそういった返事が来たんですよ。全然カラーが違うことは分かっていながらも、とりあえず好きなレーベルには片っ端から送ってみたことがあったんです。で、その二つは返事が来たってことだけは覚えていて。普通は返事さえなかなか来ないものですから。
悲鳴を歌うためにどのように解放する
――ですよね。それにしても、一回断られたレーベルから今度は契約のオファーが来たっていうのは、ちょっと感慨深いですよね(笑)。
Anchorsong : そうですね、やっぱり(笑)。実は彼らのオフィスに行った時に、そのことを言ったんですよ。「実は5年前くらいに音源を送って、断りのメールが来たんだよ。でも返事が来ただけ嬉しかったんだ」って言ったら、「返事しといてよかったよ」って(笑)。
――今回、その Tru Thoughts からリリースされることになったファースト・アルバム "Chapters" は、インストで通して聴けるアルバムが一般的に少ないので、そこを目指していたという話を聞いていますが、実際に作り上げる上での苦労は何かありましたか?
Anchorsong : 実は、ずっとそういうアルバムを作りたかったんですけど、なかなか上手く作れなかったので、結果的に EP を出すということをしていたんですよ。だから、そういった意味では苦労したとは言えますね。でもさっき話した通り、ライヴを重視していくっていう活動にフォーカスし始めたら、自分が作るべき作品がガチッと固まった気がするんです。ライヴで演奏することを制限ではなくて、クリエイティヴなダイレクションとして捉えたら、コンセプトが見えてきて。今回は、「ミニマルでありながらドラマティック」っていうのが一番のコンセプトなんですけど、ミニマルっていうのは、僕がライヴで使っている機材で演奏できるっていうのと密接に関係しているんですよね。すごく原始的なセットアップなので、出来ることが限られている。そういったライヴでちゃんと表現できるようにするためには、ミニマルじゃないといけないんですよ� ��そこを制限として課したんです。ドラマティックっていう部分に関しては、僕が1枚目(の EP)を出した頃から標榜していたことだったので、その二つを組み合わせて一つの曲に仕上げることが出来たら、どんなに曲の振り幅があっても一貫性のあるアルバムが出来るっていう確信があったんですよね。ミニマルとドラマティックっていうのは相反する部分もあると思うので、そのコンセプトで作り上げるのも決して容易なことではないとは思うんですけど、これで行くと決めてからは曲がスムーズに出てきましたね。
――今おっしゃってたドラマティックっていう部分と通じるところかもしれないんですけど、僕は Anchorsong の曲を聴いていると日本的な情緒を感じることがあります。そこは自分では意識していますか?
Anchorsong : 意識はしていないですね。でも本とかを読んでいて、自分の心の琴線に触れるものをロマンティシズムと呼ぶとしたら、僕の琴線に触れるのはモロに日本人的なロマンティシズムだなと思うんですよね。日本人にしか出せない微妙なニュアンスとか、そういうものが自分に備わっているなと感じることは最近多々あるんです。だから、それが無意識の間に作品にも出ていると思いますね。むしろ、それを感じ取ってもらえたのは嬉しいです。
――では、"Chapters" というアルバム・タイトルを、どのような意味合いでつけたのか教えてください。
Anchorsong : 短編小説集みたいな感じにしたかったんですよね。面白い短編小説集って、それぞれに違うストーリーがあるんだけど、隠れたテーマみたいなものが裏にあって、全部最後まで通して読んだ時に、すごく大きな一つの物語を読み終えたっていう充実感があると思うんです。僕の作品もそういうものにしたかったんですよ。なので、各楽曲を一つのチャプターとして捉えたときに、一つ一つのチャプターの集まりが、大きな物語として成立するっていうニュアンスを込めたタイトルなんです。
――具体的に、この曲はこんなチャプターっていうイメージがあったりするんですか? 例えば最後の 'Daybreak' なんかは、本当に夜が明けていく瞬間のドラマティックで美しい感じが伝わってきますよね。一方で 'Plum Rain' はダブステップっぽいビート感があって、夜の雰囲気が伝わってくると思います。
Anchorsong : そう言ってもらえるとすごく嬉しいですね。実際、'Plum Rain' は雨がたくさん降っている時期に作った曲なんですよ。そういうところは出ると思うんですよね。基本的にエモーショナルな音楽が好きなので、その時々で自分が感じている気分というのは、インストでも必ず無意識に反映されるものだと思っています。'Daybreak' を作ったときは……明け方に作ったわけではないんですけど。音が出せないので(笑)。でも一日の始まりの清々しくて前向きな気分を曲に出そうという気分が、きっとどこかにあったと思うんですよね。
――「インストで通して聴けるアルバム」を以前からずっと作りたいと思っていたと話していましたが、それを完成させた今、次にやりたいことは何か見えているのでしょうか?
Anchorsong : 今回は、ようやく自分の立ち位置を明確に出来たっていう思いがあるんです。僕は今後、この作品から大きく逸れたものは作らないだろうというふうに考えていて。それは同じことを繰り返していくというわけではなくて、「自分はこれだ」って見つけたものに磨き続けていくニュアンスで捉えているんですよ。ミュージシャンの進む方向って幾つかあると思うんです。外部から影響を引っ張ってきて、自分の音楽性を横に広げるか。それとも、自分の音楽性を磨き続けて、深化させていくか。僕は後者になりたいと思ったんですよね。自分は誰にでも出来ることじゃないことを追求していると思っているから、そこに磨きを掛けていこうという気持ちがあります。
ただ、全く変わらないのでは意味がないので、その時々の時代の流れはしっかりと反映させていきたいんですよ。とは言っても、今ダブステップが流行っているからダブステップを取り入れるとかじゃなくて。その奥の見えずらいところに、時代のカラーってあると思うんです。今のポスト・ダブステップとか好きでいろいろ聴いているんですけど、たぶんみんながそんなに着目していない部分に魅力を感じていたりするんですよね。それを僕なりに作品に投影させていたりするんです。それは今後も続けていきたいと思いますね。自分の根っこはしっかりと持ちつつも、装飾や色付けの部分で時代性を常に反映させていくっていう。そういうものは長く聴き続けられると思うので。
end of interview
リリース情報
Anchorsong - "Chapters" (2011)
品番 : BRC-309
レーベル : Tru Thoughts / Beat Records
税込価格 : Y2000(税込)
購入はこちらから→beatkart
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